少し前のアニメやマンガでは、必ずといって良い程「ツンデレ」な女の子が存在していました。 現在は、キャラクターの性格も多様性し、「メンヘラ」や「腐女子」など多くの性格パターンが存在します。 でも、ここまで際立ったキャラクター性を発揮する「性格」はありません。 今回はそんな「ツンデレ」という性格だけで物語を作り上げた作品『百舌谷さん逆上する』をご紹介します。
●あらすじ
主人公「樺島番太郎(かばしま ばんたろう)」は、獲り得の無いどんくさい小学5年生。
クラスでも蔑ろにされ、クラスのリーダーでありガキ大将の「竜田揚介(たつた ようすけ)」にあごで使われる毎日。
そんな彼のクラスに転校生が現れる。
ツインテールの金髪で碧眼、頭脳優秀で運動神経もある美少女「百舌谷小音(もずや こと)」
でも、彼女には持病があった。
それは「ヨーゼフ・ツンデレ博士型双極性パーソナリティ障害」
通称「ツンデレ」と呼ばれるその奇病は、親しい人に対して攻撃的になるという治療不可能な難病だった。
●「ツンデレ」という人を惹きつける魅力
相手に好意を抱きながらも、それを素直に表現出来ない内向性の性格「ツンデレ」。
本作品は、そんな「ツンデレ」という性質を突き詰めた作品です。
もう突き詰め過ぎて、ヒロイン「百舌谷小音」は浦沢直樹の「MONSTER」に登場する「ヨハン」にも匹敵する様な事件を起こします。
更には、当時の朝日新聞でも、本作品の魅力が書評面で取り上げられています。
>極端に誇張されているものの、「好きな相手には意地悪する」「嫌い嫌いも好きのうち」という心理は誰しも理解できるはず。
>彼女が抱える絶望感、訳合って彼女の下僕となった不細工男子との関係も含め、
>屈折と倒錯に満ちた暴走ラブコメディーだが、根底には意外と普遍的な人間心理の綾がある。
出典「2008年3/13朝日新聞「コミックガイド」より」出典:http://d.hatena.ne.jp/YUYUKOALA/20080713/Mozuyasan
朝日新聞の書評に「百舌谷さん」が登場 - [ 悠 々 日 記 ]
書評をしたのは、西原理恵子のマンガ『できるかな』を担当した編集者「新保 信長(しんぼ のぶなが)」氏。
マンガだけでなく、時事問題も扱う編集者です。
そんな社会派な編集者も認める「ツンデレの煮凝り」的な魅力に溢れた作品です。
●人間ドラマとしての完成度の高さ
かつて、マンガのヒロインは、殆どがこの「ツンデレ」タイプでした。
代表的なところでは、エヴァンゲリオンの「アスカ」、らんま1/2のヒロイン「天道あかね」、シティハンターの「槇村 香」...。
少女マンガでは、ヒロインとヒーローは互いに敵対しつつ、最後は理解して両想いになるという「双方向型ツンデレ」がテンプレでした。
しかし、2017年現在はどうでしょう?
半ば盲目的に一方的な思いを寄せるキャラ。
下手をするとヒーローを必要としない自立したキャラ。
いまやマンガやアニメでは、使い古された「ツンデレ」は絶滅しています。
多くの作品は、キャラクター同士の「かけあい」や交流を2の次としています。
そんな昨今の単純なデスゲームや設定だけに支えられた物語より、キャラクター同士の交流や悲喜劇にある「人間との交流」が持つ面白さを、本作品は読者へ伝えます。
●誰でも記憶にある「若さゆえの過ち」
「ツンデレ」という性格が引き起こす悲喜劇を綴った本作品。
しかし本作品の魅力は、ヒロイン「百舌谷小音」の「ツンデレ」だけではありません。
主人公「樺島番太郎」は、頭も悪く何の取り柄も無い少年ですが、「優しさ」だけは人一倍持っています。
その「優しさ」を武器にヒロイン「百舌谷小音」と交流するのですが、何を勘違いしたのか「ドM」への道をまっしぐらに駆け上がって(?)行きます。
それだけならまだしも、作中で様々な女の子と接するうち、ファッションや性格が非常に「痛い」方面へと暴走します。
コスプレイヤーでショタコン+ロリコンな看護婦。
「竜田揚介」の兄は、弟へ恋愛の高説を述べるが実は恋愛経験の無いオタクで陰キャラ。
「竜田揚介」自身も、ガキ大将のテンプレすぎて他人への思いやりに欠けた性格。
他にも登場する人物の殆どが、何かしらの「弱さ」や「痛い要素」を持っていて、それぞれに苦労し悩み向き合う姿が描かれます。
それは、読み手であるアナタも経験がある「人生の過ち」を思い起こさせる事でしょう。
現在でも「日常系」と呼ばれる分野には、こうしたキャラクター性を重視した作品が多く見受けられます。
最近の作品で、本作品と近しいテイストの作品は、「ワタシがモテないのはどう考えてもお前らが悪い」などでしょう。
しかし、その性格はあくまでもスパイス的なものでしか無く、本作品の様にしっかりと「肉付け」された作品はありません。
また、多くが4コママンガで物語のエピソードは断片的であり、本作品の様に連続性を有する物語性を持って作られた作品はありません。
本作品は、すでに連載は終了しており、単行本10巻で販売されています。
第一話だけは、アフタヌーン公式サイト「モアイ」にて無料公開されています。
「ツンデレ」という稀有な性格要素によるドラマチックな物語。
人間同士が交流する事で織りなす悲喜劇を堪能してみてはいかがでしょう?
参考元
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