「あの人、いまのわたしを見たらどう思うだろう」 遺された者にとって、先立ってしまった最愛の人の存在はあまりにも大きくて重い。それは確かな支えになるが、時に足枷にもなる。 今回ご紹介したいのは、遺された者の葛藤を描いた物語『春の呪い』だ。
デビュー作にして「このマンガがすごい!2017」に選出!
作者・小西明日翔の漫画家としてのデビュー作であると同時に「このマンガがすごい!2017」ではオンナ編2位を獲得した『春の呪い』。単行本発売当初、書店では即完売が続出したという。
まず一番に印象的なのは単行本一巻の表紙だ。小西明日翔独特の画風で若い男女が描かれている。この漫画が発表される以前から、作者が創作系ウェブサイトでイラストを公開していたこともあって、このタッチのファンだという人も多いのではないだろうか。
喪服の男女、骨壷、二人の奇妙な距離感、舞い散る桜の花弁。「死」を前面に押し出した、どこか不穏でとにかく只事ではない雰囲気の表紙になっている。気になるあらすじは次のとおりだ。
「妹が死んだ」からはじまる衝撃のストーリー
立花夏実はたった一人の家族、妹の春を亡くした。春は夏実のすべてだった。しかし春は最期の瞬間、姉の名ではなく婚約者の名を呼んだ。
春の婚約者であった柊冬吾は夏実から春を奪った男といってもよかった。それほどまでに春は冬吾を愛していたのである。
冬吾に対し一心に愛を向けた春の死後、冬吾は夏実に自分との交際をもちかける。それは残酷すぎる提案だった。夏実は、春が生前冬吾と行った場所を訪れることを条件に冬吾との交際を受け入れるのだった。
表紙の雰囲気を裏切らず、死んだ妹の婚約者と交際する姉という、ある意味特殊な状況に置かれた主人公が登場する。ほのかに漂う禁忌の香り、だからこそ目を離せなくなる。pixivコミックで冒頭のみ公開中だ。
みどころは人物の表情と展開のテンポ
作品の軸となっている登場人物の葛藤をより効果的に表しているのは豊かな表情の変化だろう。シンプルな線で描かれた顔だからこそ、変化が際立つ。
特に人物の余裕のない表情がみどころだろう。人前で明るく闊達に振る舞う夏実は顔に笑みを浮かべ、笑う時は豪快に笑う。
クールな性格の冬吾は落ち着いた性格であまり感情を顔に出さない。罪悪感に苛まれた夏実が余裕を失い顔を歪めるとき、自分の気持ちに気付いた冬吾がポーカーフェイスを崩すとき、心のもがきが読者に迫り伝わってくる。
登場人物の横顔も印象的だ。小西明日翔はcakesに掲載されているインタビューのなかで横顔の多さを「描けるレパートリーが少ない」と語っているが、翳りのある横顔もまた夏実や冬吾の心情を想像するうえで重要な手掛かりとなっている。
また、物語の展開のリアルな速度も魅力の一つだろう。作者はウェブサイトで漫画を発表してきた経験から、縦スクロールのページに合わせたコマ割りに慣れていたのだという。
『春の呪い』では右から左へと侵攻する紙の漫画本に合わせてコマ割りを工夫したそうだ。そうした工夫は、まるで登場人物の感情の機微を追体験させるような繊細な表現を支えていると言えるだろう。
たとえば夏実が思わぬところに春の痕跡を見つけるシーン、夏実の緊迫感と焦燥感がそのままページになったかのように絶妙な速度でコマが進んで行く。
夏実と冬吾、二人の結末は…
『春の呪い』全2巻、すでに完結済みである。
二人の交際はどこへ行き着くのか。死んだ春を思いながら二人はどんな決断を下すのか。結末を見届けたあなたは何を考えるのか。
小西明日翔『春の呪い』一迅社より発売中。ぜひ一度手に取ってみてほしい作品だ。
参考元
- ・参照リンク:『春の呪い』インタビュー|小西明日翔|cakes(ケイクス)
- ・春の呪い一迅社
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