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目次
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2017年に制作されたレバノン映画で、第74回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映された。ヴェネツィア国際映画祭では、ヤーセルを演じたカメル・エル=バシャがパレスチナ人で、初めて男優賞を獲得し話題になった。
また第90回アカデミー賞の外国語映画賞に、レバノン史上初めてノミネートされた作品だ。監督はクエンティン・タランティーノ監督の、アシスタントカメラマンを務めていたレバノン出身のジアド・ドゥエイリ。
自動車修理工場を営むトニー(アデル・カラム)は、身重の妻と2人で暮らしている。彼はまた、レバノン国内のパレスチナ難民排除を訴えるキリスト教系の政党のメンバーだった。
ある日、街の建物の修繕をおこなっていたパレスチナ人の現場監督・ヤーセル(カメル・エル=バシャ)とトニーは、ささいなことで口論になった。後日、謝罪に来たヤーセルにトニーは暴言を吐き、激昂した彼に殴られてしまう。
トニーはヤーセルの暴行に対して起訴をする。「喧嘩両成敗」で解決するであろうと思われていた裁判は、当事者のふたりさえも予想していなかった意外な展開に発展していく。
レバノンの首都・ベイルートで、自動車修理工場を営んでいる。パレスチナ難民排除を訴えるキリスト教系の政党のメンバーであり、パレスチナに強硬姿勢を貫くタカ派政治家として有名なアリエル・シャロンの支持者。ヤーセルがパレスチナ人だとわかると容赦ない言葉を吐き、結果的にヤーセルの尊厳を傷つけてしまう。
パレスチナ難民。ベイルートの街の修繕作業を請け負っている業者に雇われ、現場監督として働く。仕事への姿勢は極めて真面目。現場監督としても人望があり、部下たちに慕われている。街外れにある難民キャンプで暮らしている。トニーのもとへ謝罪に行った際、彼の暴言が原因で激昂してトニーを殴ってしまう。
トニーの妻で、彼との第一子を妊娠中。昼間はトニーの自動車修理工場の事務仕事を手伝っている。ヤーセルに対するトニーのひどい態度が理解できず苦しむ。ときには、トニーに態度を改めるように意見することもある。
ヤーセルの妻。ヤーセルとともに難民キャンプに住む。ヤーセルのことを信頼しており、裁判中も親身になって彼を支える。
裁判でトニーの弁護を担当する弁護士。かつて大きな裁判をいくつも担当した実力派の有名弁護士で、何人ものメンバーで構成されたチームで、トニーの弁護にあたる。
ヤーセル側の弁護士。ヤーセルのもとを訪れて、一連のトニーの発言はヘイトクライムだと主張し、彼の弁護を買って出る。裁判ではパレスチナ難民の人権面を重視し、ヤーセルの弁護をする。ワジュディーとは因縁の関係。
『判決、ふたつの希望』は、ジアド・ドゥエイリ監督の実体験がベースになった作品です。とはいっても、監督自身が誰かと口論の末に裁判を起こしたわけではありません。
実際は、ある配管工の男性と口論になった経験から、いろいろと肉付けして完成したのが今作なのです。
まさにレバノンで生まれ、国内でのキリスト教徒とパレスチナ難民の複雑な関係を、肌で感じている監督だからこそ、作り上げることができた作品といえます。
『判決、ふたつの希望』というタイトルは、もちろん邦題です。原題は『The Insult』といい、このinsultとは「侮辱」という意味です。まさに『判決、ふたつの希望』は侮辱から始まり、展開されていく映画です。
そういった点では、ぴったりなタイトルといえます。しかし邦題の『判決、ふたつの希望』の意味も、映画終盤のシーンで明らかにされます。
裁判所の外で、互いを見つめあうトニーとヤーセルの視線は、それまで争っていた2人のものとは明らかに異なるのです。「侮辱」で始まるドラマではありますが、最後は見ている方にどこか「希望」を抱かせる作品になっています。
『判決、ふたつの希望』は、内戦や宗教、思想、民族、政治というさまざまな問題が背景にあります。これらは、私たち日本人には、あまりなじみがないものです。
しかし物語の根底にあるのは、それぞれの人間が信じる正義や個人の尊厳であり、この映画はそれらをテーマにした究極の人間ドラマといえます。
物語の中盤では、トニーやヤーセルがそれぞれ背負うものを省いて、一個人として向き合ったとき、彼らは良き理解者になれたかもしれないと思わせるシーンがあります。そのシーンがあるからこそ、映画のラストがより感動的になっており、希望を持たせるラストになっています。
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