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2016/12/28
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禁じられた飼育【姉飼】遠藤徹

姉を飼う、というインパクト絶大な字面ですが、作品の主人公にとってはそれがあたりまえ。姉というものは、この世界の一部の住人たちにおいて、【飼う】ものに他ならないのです。

目次

・姉飼

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ずっと姉が欲しかった。

ここまでは、納得できる文章ですね。

姉を飼うのが夢だった。

次のこの一文で、なにやら世間の一般常識が通じなさそうである、ということにお気づき頂けるかと思います。

この作品における「姉」とは血縁関係にある年上の女性のことではありません。「姉」と呼ばれる、固有の生き物なのです。

・「姉」を「買う」

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「姉」は祭りの夜に、出店で売っています。

太い杭に胴体の真ん中を貫かれた状態で、それでも生きている、姉。隙あらば見物客の肉をこそげとってやろうと伸び放題の爪を振りかざす、姉。客にかみつくすんでのところで、店員にスタンガンを当てられてぎゃあぎゃあと悲鳴を上げる、姉。

「姉」と言われて我々が連想するような、年上のいたって普通な女性の姿はそこになく、ただ人間の女性に酷似した形の、怪物がいるばかりです。

幼少時に、この「姉」を見てしまった体験をきっかけに、「姉」に魅入られた主人公は、「姉」を扱う業者とどうにか連絡を取り、ついに念願の「姉」を入手することに成功します。

姉の上げる叫び声で周囲に不審がられないよう、いわくつきの一軒家を購入し、そこで彼と「姉」との生活が始まります。

この一軒家は、事件があったことを差し引いても、寂しい場所にあります。家自体も、非常に寂しい雰囲気をヴェールのように纏っています。

そこで彼は、考えられる限りの拷問を、大枚はたいて買った姉に与えました。スタンガン。鞭。剃刀。錐。

きっと主人公は、姉がそれを自分に求めているのか、自分が姉にそれを求めているのか、わからなくなってきていたことでしょう。

・「姉」の泥沼

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「姉」との蜜月は長くは続きませんでした。もとより体の真ん中を、杭で貫かれている「姉」ですから、長生きができないのも仕方がないことなのでしょう。

あんなに愛しい「姉」の死に、嘆かずにいられるわけがありません。さらに「姉」は、生前のけだものにも似た凶暴性を死ぬことによってすっかりと脱ぎ捨て、抱き寄せただけで崩れ落ちそうな、はかない空気を漂わせていたのでした。

主人公は「姉」そのものとともに「姉の死」にも取りつかれてしまいました。注文をするたびに業者の態度は横柄になっていきます。なぜなら、「姉」を看取ったものがどうなるか、よく知っているから。顧客が「姉」を求めずにいられないと、よくわかっているからです。

高額な「姉」、彼女の維持費、そして業者からのプレッシャーで主人公の生活は破綻してゆきます。金銭的にも、精神的にも。

そんな彼に業者から、最後の「姉」が与えられます。
その「姉」の出どころに、因果を感じるラストシーンです。      

・短編いろいろ

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この「姉飼」には、ほかにも同じ著者の短編小説が収録されています。ショッキングな表題作を前にしても、霞むことのない強烈な物語ばかりです。

せっかくですからそちらのほうも、この場を借りてご紹介いたしましょう。

・キューブ・ガルズ

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記憶喪失の主人公は彼氏(自称)からとんでもない事実を告白されます。

彼女の正体は「キューブ・ガールズ」と呼ばれるピンクの立方体。これに好みの女の子の情報をインプットしたのち、水を張ったお風呂に入れると即席ダッチワイフ(勿論、超リアル)のできあがり。

そのキューブ・ガールズが彼女自身だと告げられて、困惑しないはずがありません。
そもそもそんなものが実在するかも、記憶喪失である彼女にはわからないのですから。

記憶喪失の恋人、あるいは女友達に意地悪して、変なほらを吹き込んでいるだけかもしれません。
そう信じていなければ、彼女の心は壊れてしまいそう。

だって仮に本物のキューブ・ガールズなのだとしたら……時間が来ると、彼女は跡形もなく消えてしまうらしいのですから。

・ジャングル・ジム

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この作品の主人公は、タイトルの通りジャングル・ジム。えっ? と思う方もいらっしゃるでしょうが、物を主人公にした物語は決してないわけではありません。コートの一人称や、地図の独白。数え上げれば結構出てくるものです。

そのうえこのジャングル・ジムはちょっとばかり特別製ときていますから、主役を張る資格十分と言って差し支えないでしょう。

彼は自意識を持つジャングルジム。
公園で、毎日子ども達の相手をしています。上ったはいいけれど、危なっかしい子がいたら気づかれない程度に手を差し伸べて降ろしてあげたり、よりかかってくる母親の悩みをそっと聞いてあげたり。

ジャングルジムの仕事は子供や、その保護者の方を相手にするだけにはとどまりません。
ある日は、疲れたサラリーマン。ジャングル・ジムの、適当なバーに腰かけて歓談する二人(?)。煙草がなくなるころには、サラリーマンはすっかり……とは言わないまでも元気を取り戻し、手近な電車に乗って帰っていきます。

ある日は、インスピレーションの浮かばない詩人。彼はもう、「自分は詩人じゃない」と思うまで追い込まれておりました。いつも優しい言葉をかけてくれるジャングル・ジムにも、ついつい反発してしまいます。

そこでとった励まし方は、ジャングルジムならでは。
とりあえず、深く考えず、自分の身体の中を巡ってみてほしい。
最初は乗り気でなかった詩人も、そうするうちにみるみるインスピレーションを回復させ、素晴らしい詩編をいくつもノートに書きつけていきます。

このように、誰かのために尽力することを生きる(?)目的にしていたジャングル・ジムですが、ある日の出会いをきっかけにその均衡は崩れ始めます。

きっかけは、スーツを着た一人の女性。
彼女はジャングル・ジムのことを彼異常に知り尽くしているというようなことをにおわせて、いったいどういう原理なのかはさて置き、ジャングル・ジムとレストランで食事をともにします。

この女性は、ジャングル・ジムを悪用する手始めとして接近してきているのですが、純朴な彼は彼女を疑うことすらしません。

ジャングル・ジムの様子に満足している女性ですが、彼女が忘れていることが一つ。
愛は、時として異常な方向へ進んでしまうものです。

・妹の島

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トップバッターが姉なら、トリを飾るのは妹。閉鎖された島を舞台にした、姉飼に勝るとも劣らぬ陰惨な物語です。姉飼に比べて物語の舞台が広い分、余計嫌な気持ちを感じる方もいらっしゃるかもしれません。
 
果物の栽培、出荷を主産業とする小さな島で、連続して起こる殺人事件。ほとんどの遺体が異常な状況下で発見される事実と、果樹園にはびこる得体の知れない害虫が不安感を否応なしに煽ります。
 
不安に包まれた島には秘密もたくさんあります。果樹園を管理する兄弟たちの父親。父親の、本当の妻。そして暗い目をした養蜂家の青年と、すでにこの世を去った彼の妹……。
 
「妹の島」である所以は、物語をほどく道中、あなたがみつけてください。

・解説にも注目

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第10回ホラー小説大賞受賞作である「姉飼」は、解説まで豪華です。

なんと筋肉少女帯などの音楽活動でおなじみ、大槻ケンヂ氏が書いています。氏のエッセイや小説作品をお読みになった方ならわかるでしょう、あの独特の節回しで時々脱線しながらも、作品の魅力をしっかり伝えてくれます。

とはいってもネタバレまでは至っておりませんので、まず解説から読んでしまうのもいいかもしれません。

ちょっぴりの予備知識を仕入れたうえで、本編を想像しながら表紙を開くのもまた一興ですよ。

参考元

  • ・姉飼角川書店

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