ゲームカルチャー協会の代表理事である松岡雅幸さんと、理事を務める岡田大士郎さんの対談が実現!「ゲーミフィケーション」をテーマとして、ゲームと社会の関わりや、環境や組織づくり、ゲーム業界のあれこれについて語っていただきました。
- aukana編集部
「ゲーミフィケーション」とは、ゲームデザイン要素やゲームの原則をゲーム以外の物事に応用すること。
ゲームデザイン要素を使って組織の生産性を向上させたり、教育分野に活用したり、従業員が働きやすい環境を整えたりと、様々な分野で活用されています。
今回対談していただくのは「一般社団法人ゲームカルチャー協会」の代表理事である松岡雅幸さんと、理事を務める岡田大士郎さん(元米国スクウェア・エニックス社長(COO)現株式会社HLD Lab代表取締役社長CEO)のお2人です。
第1回のテーマは「ゲーミフィケーションとライフスタイル」について。2020年に施行された「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」を切り口に語っていただきました。
(写真左)岡田大士郎 1955年生まれ
2005年にスクウェア・エニックスに入社し、2007年まで米国Square Enix, Incの社長(COO)として米国事業に携わる。2019年1月には株式会社HLD Labを創業。
(写真右)松岡雅幸 1992年生まれ
2019年1月に一般社団法人ゲームカルチャー協会を設立。学生時代には「ロックマンエグゼシリーズ」大阪・東京・名古屋大会にて優勝。某有名トレーディングカードゲームのPC版で世界ランキング1位を取得した経験もあり。
ゲーミフィケーションと香川県のゲーム条例
岡田(写真左):まず最初に「ゲーミフィケーション」という文脈でお話をする対極のテーマではあるのですが…。香川県の『ネット・ゲーム依存症対策条例』というきっかけからお話していきたいなと。ゲームの世界をどのように作っていくか、という点を考えている立場からすると、ゲームとの付き合い方といった「認識と理解」をきちんとしていただきたいな、という思うんですね。
松岡(写真右):香川県の『ゲーム条例』は驚きましたね。今では「eスポーツ」と言われるようになり、プロのアスリートが生まれるような環境の中だったのに、条例でダメだと縛るのはショッキングでしたよね。
岡田:そうですよね。私が最初に見たとき少しびっくりしたのが、私がスクウェア・エニックスに2005年に入社して13年間いたんですけど、その2005~6年くらいに、ゲームは教育上良くないのではないか、というバッシングを受けることがあったんですね。あくまでもそれは「認識の歪み」や「誤解」だったのかなと思っていたんですが、現代になっても同じようなバッシングを受けることに驚きましたね。
松岡:本当に驚きましたね。もちろんポジティブな面もあるようで、ゲームを楽しむ時間が減ったというよりは、子どもたちが集まってゲームをする時間が増えた…という統計もあるみたいですね。僕はゲームはスポーツと同じようなもので、一種のコミュニケーションツールみたいなものだと思っているんです。
岡田:そうですよね。私もゲームとは「幸せ創造」とか「わくわく」を生み出すツールと考えてますから、子どもにとっても楽しみや喜びを感じられる貴重な時間になっているはずなんです。それを子供が「ゲームに依存しすぎてしまう」ということだけを見るのは、大人の「認知の歪み」を感じる部分ではありますね。
ゲームと依存症の関係
岡田:ゲームに限ったことではないんですが、仕事で「マーケティング」をしている人たちは、「どうやったら買ってもらえるか」という点を常に考えている訳です。ゲーム作りについても皆さんに楽しんでいただけるように、その魅力をどうやったら醸し出せるかっていうのを、徹底的に考え抜きながら作り上げているんです。
松岡:だからこそ、人によっては「依存症」になってしまうことがあるんですね。
岡田:でもそれが「ゲームの責任」なのか。それとも「作り手の責任」なのか。それをいっても始まらないので「規制をかける」というのは本末転倒ではないかと。
松岡:確かにそう思います、他業界を引き合いに出すのは良くないのかもしれませんが、「パチンコ業界」もそうですよね。自分が抑制できるラインを定めてお金を使う量を決めるみたいな。ゲームも同じで、自分に甘ければいくらでもやってしまいますが、ブレーキをかけられる人はかけられると思うんです。そこはむしろ教育的観点なのかなとも思います。
岡田:その通りだと思います。私も一時期パチンコ業界に関わっていましたが、パチンコ業界は20兆円と言われる巨大産業な訳ですよね。日本特有のエンターテインメント文化な訳ですけど、ゲームも似たようなところがあるように思います。
そうなるとスポーツと同じように、大人の目線から「適正に時間管理すべき」「やり過ぎてはいけない」と言い出すのはわかるんです。でも本来は、自律的な時間コントロールをできるようにするのが教育的な観点として正しいのであって、頭ごなしに禁止するのは違うのではないのかなと、感じますね。
10年、20年後もゲーム感覚で楽しむ人生
松岡:ゲーミフィケーションに近いんですが、最近「ゲーム感覚で何かをする」って言うのが流行ってるんですよ。僕も4月からコロナのためにリモートワークに入ったんですけど、自粛で太るのはわかっていたので、「プチ断食」をYouTuberのDaigoさんにならって、ゲーム感覚で始めてみたんですよ(笑)
岡田:そうなんですか(笑) 痩せましたか?
松岡:3ヶ月で82kgから75kgまで痩せました(笑) 毎日体重計に乗るとか、小まめにアプリに体重を記録していくとか、普通は面倒で辛いことなんですけど、ゲーム感覚でやれば何事も楽しめるんだなと。「昨日はプチ断食せずに居酒屋に行った」ということがあれば露骨に体重が増減しますから。それをゲーム感覚で記録しながらできたのは大きかったですね。
岡田:人間は楽しいこととか、好きなこととか、わくわくすることとかってみなさん好きですよね。ですから、働く義務であったり、学校で勉強する義務だったり、受験を目指して頑張る努力も大切なんですけど、何か強迫観念というかね、やらされてる感というか。自律的にやるっていうよりも、頑張って、我慢して、耐えてという根性論になる傾向があるように感じます。
それは一種の日本のカルチャーなのかもしれませんが、自分を律して打ち勝てる人もいれば、途中でめげてしまう人もいる訳です。それを「ゲーム感覚」という手法でうまく乗り切っていくことができるんですよ。
松岡:確かに。昔、僕の両親の時代なんかは、練習中に水を飲んだらダメなんてこともあったと聞いてますが、今はそんな体育会系的なものは少しずつなくなってますよね。みんなが苦しいのが美徳的な考えはもうなくなって、みんなで笑顔でいいもの作ろうっていうほうが精神衛生的にもいいし、もっといいアウトプットが出来るよ、といった風潮になってきていて。そういうのがこれからもっと進んでいくといいですよね。
岡田:そう思います。私が、「HLD Lab(ハッピー・ライフデザイン・ラボ)」を作った時の意識というのが、人生楽しまなきゃねっていう「わくわく社会づくり」だったんです。
「株式会社HLD lab」ってどんな会社?
2019年に岡田さんが起業。働く人たちが「わくわく」しながら、個性を発揮し、様々な個性が「調和」・「躍動」してゆける社会環境を作ることを目指しています。出典:https://hld-lab.jp/
岡田:今、私65歳になるんだけど、周りを見渡した時に同年代の人たちって大体、組織を離れていて、悠々自適という名のもとに社会とあまり繋がらないような人もいる。でも、それって残念だよねってよく言ってるんです。もう年金で生活できるから、っていう考え方もあるとは思います。でも、人生100年時代になって、100歳まであと35年悠々自適というと飽きて来ない? って思うし(笑)
松岡:岡田さん今65歳ですか! そのお年になってもいろいろ活動されて、こういった取材も受けておられて、本当にすごいですよね。
岡田:ありがとうございます(笑) 年甲斐もなく、って感じですけどね(笑)
でもやっぱりこう一つの人生パターンというか。シニアライフをこれから送る方は、人間誰しも暦年齢は毎年増えていく訳です。1年で必ず1歳年を重ねて、いつかは60代になっていくんですね。今若くても、現役でも、10年後の自分、20年後の自分ってのは必ずくる訳で。でもその日を迎えられるような健康的な自分っていうのを、皆さん望んでいると思うんですよね。
自分も65歳になって見える世界というか社会というか。ゲーム会社で仕事をした13年間で見えていた世界というか。その前まったく別の金融業界という中で25年間見えていた色合いだったりとか…。経験時間というのが、年を重ねると持てるので、そういった色合いの「人生ブレンド」ができてくると、65歳になってもまだ少し先を期待しながら社会がもっと明るくハッピーになるような。そんな世界づくり、社会づくりをしたいなと思いながらハッピーライフデザインラボなんて活動をやってます。
人生感覚を変えるのがゲームの面白さであり素晴らしさ
岡田:松岡さんと一緒に『ゲームカルチャー協会』でご一緒する背景もそうなんですよね。ゲームが持つ素晴らしさをどのように活用してゲーミフィケーション社会を作るか、という。まさに今そういった活動を楽しませてもらってるんですよね。
松岡:いやいや、ほんとこちらこそ楽しませていただいています。まさか僕が、今取材を受けるような存在になれるなんて思ってなくて(笑) こうやって超大手のスクエニの元米国現地法人のCOOさんにご協力いただいて、夢に共に取り組ませてもらえているのは、責任も重いですがとてもやりがいのあるものだなと感じています。
岡田:カジュアルに人生楽しめばいいと思うんですよね。今は「eスポーツ」といったゲームを観戦する楽しみ方が出てきたじゃないですか。私自身もアメリカにいるときは、あんまりうまくないんですけど、ひたすら週末は「FF」に没入して、なんてことをやっていたんですが、ゲームのストーリーが人生に与えてくれるメッセージ、例えば「ファイナルファンタジー7」のストーリーとかは、心に刺さる話であり、ゲーム人格を超えて、自分の人生の中のリアルな人とのつながりになってくる感覚なんです。それって、昔は本を読みましょう、いろんな小説読みましょうっていう、読書感覚と同じだと思うんです。
松岡:ゲームも本ということですね。
岡田:その通りです。本や小説の中に、自分が経験できなかった人生であったり、自分とは違う視点で生きている人たちであったり、その物語の中に、自分がこう心を投影するという楽しさと学びと…。そういった人生感覚を変えていくっていうのがゲームの面白さであり素晴らしさである、と思うんですよね。
松岡:作家さんの思いが文字に起こされて。それがゲームの場合は、クリエイターさんの思いや気持ちがゲームに起こされて。それがプレイヤーに繋がるっていう…。同じですよねやっぱり。
岡田:それがまあアナログ的にね。今、本もデジタルになってる時代ですけど、私はページめくりの感覚とか紙の質感と匂いとか大好きなので、デジタルとアナログのハイブリッドで読書は楽しむんですけど、アナログの面白さとデジタルの世界を合わせた楽しみ方です。ゲームも同じだと思います。ゲーム感覚で学び、楽しめる「ゲーミフィケーション」が大切ですよね。
ゲーミフィケーションとして楽しむこと
松岡:これから小学生中学生向けに、義務教育でプログラミング教育が導入されると思うんですけれども、その中で僕の友人で「ドローン教育」を推進している人がいるんです。ドローンを作るためにゲーム感覚でプログラミングを学べる、みたいな。これもまさしくゲーミフィケーションになってくるのかなと。
プログラミングを、大学のプログラミング学科に所属して学びましたけど、いわゆる通信系のゴリゴリのプログラミングだったので、ひたすらこれを作ってくださいというような用件だけで、全く楽しくなかったんですよね(笑) でも、ドローンを飛ばすためにってなると、ゲーミフィケーションとして楽しみながらプログラミングを学べるんじゃないかなと思いますね。
岡田:よくわかりますね。私は「わくわく」というキーワードがすごい好きで、やっぱり幸福とか、ウェルビーイングとかウェルネスとかいろんな言い方がされますけど、実は「WAKUWAKU」って英語でも通じる時代になってるんです。
心が踊る時間を楽しむ。それで、それを幸せに感じるという人からすれば、自分の意識がそこに向かった時の喜びがあるんですよ。それがあればチャレンジする時の苦がなくなりますよね。まさに「好きこそものの上手なれ」ってことがそのままだと思います。
もちろん事務的に要求されたことを仕上げていく、ということも大変な仕事ではあるけれども、その場合は「自分のクリエイティビティを組み込む」というより、いかに「オーダーされたものを正確に早く仕上げるか」という話になります。そういう面では、ゲーミフィケーションっていう領域で考えるとそのクリエイティビティといった、自分の中の考え方に違いがありますよね。
松岡:そうですよね。アウトプットしたものが見えるとか、ゲームと同じで報酬が見えると、やっぱり楽しみになりますよね。
わくわくして自分から何かやりたい、と思える仕掛け作り
岡田:最近よく相談をいただくのが、地域のご高齢の方たちの、健康増進についてのお話です。行政の意識は、一部学術的なスポーツ医学とかをやってる先生を含め、お年を召した人に歩いてもらいたい。歩くことは一番簡単なエクササイズですし、健康の源ということがわかっている。そこで歩いてもらいたいがゆえに、歩かせるような施策とかを講じるんです。
札幌や横浜とか相模原などで試しに行っているんですが、「健やか」に「幸せなポイント」という「健幸ポイント」ってのを導入しています。昔のラジオ体操に出るとハンコもらえるのと同じ感じで、1ポイントもらえると街のお店で物が買えたりするんです。
松岡:まさにゲーム感覚ですね!
岡田:モチベーションを持ってもらうというか。このようなことをやっているところは多いんですが、これって、言ってしまえば「お金あげるから歩きませんか?」と提案するのと同じでもあるんですよね。歩きたくないけどお金もらえるなら…って。
だけど現実的に、ずっとお金を支払い続けるのって無理がありますよね。もっと内省的に「やりたい!」と思わせるにはどうすればいいか、なんてことには、自治体の方も、行政も大学の先生なんかもあまり馴染みがないんです。それでご相談いただいてお伝えしたのがゲーミフィケーションなんです。
わくわくして自分から何かやりたいって思える仕掛け作り。これはまさにゲーム作りそのものです。「ドラクエウォーク」がちょうど1周年を迎えたり、「ポケモンGO」のARを使ったゲームが話題にもなりましたが、こういったゲームをご高齢の方にも楽しんでいただければ…。
松岡:まさにリアルとゲームの融合になるんですね。
岡田:そうなんです。みんなで話し合ってひとつのことに向かったり、色々と頭を使って推理してみたり…。ゲームをきっかけに歩いてもらえることになる。ご高齢の方を「歩かせる」のではなく、自ら「歩きたくなる」ような試みができるんです。
松岡:楽しんで能動的に「ゲーミフィケーション感覚」でやれると、苦労だと思っていたものが自然とやれるようになりますよね。
岡田:嬉しい、喜び、楽しみ、面白いという感情は年をとっても若くても大切なものです。しかし香川県のゲーム条例のように、子供たちがゲームに没入することは「依存」や「中毒」だと言われることがあります。
ただ人間の心って、多かれ少なかれそういう資質を持っているはずですよね。ネガティブなところだけを抜き出して、ゲームに熱中することを「アルコール依存症」や「薬物中毒」と結びつけるのではなく、ゲーミフィケーションという広い理解による意識を持っていただきたいな、と考えています。
- aukana編集部
「ゲーミフィケーション」をテーマとして、ゲームと社会の関連性や依存の問題まで、幅広く語っていただきました。
次回のテーマは「ゲーミフィケーションとビジネス」となります。
お2人は「ゲーミフィケーション」という概念をどのようにビジネスの場に取り入れているのか…。組織のあり方から働き方まで深く考えられる対談となっています。次回もご期待ください!
参考元
- ・参照リンク:https://g-c-a.or.jp/
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