気持ちは美しさを求めてやまないのに、醜く変わっていく身体の恐怖。 乙女と怪物の間を、心も体も揺れ動く少女の物語。
美しくあるために
龍烏楼子は奇跡ともいえる美貌と、透き通るような白い肌の、女神か天使かというようなとびきりの美少女です。
己の美しさを自覚する彼女は、その美を保つことにも余念がありません。紫外線に対する憎悪は人一倍、校則違反だからと取り上げられても毎日日傘を差してきて、体育は全部見学という徹底ぶりです。
教師からは「日焼け止めを塗ればいい」と、一般常識からしてみればもっともな意見を言われるのですが、楼子は頑として日傘を持ち続けます。
彼女いわく、紫外線対策には日焼け止めのみでは足りないとのこと。初夏の日差しは紫外線の土砂降りのようなもの。この季節に日傘を差さない女のコなど大ばか者、死んでしまえとすら思っている楼子でした。
その醜い姿
これだけ美しさに強いこだわりを持つ楼子ですが、その身体には本人が嫌悪してやまない、ひどく醜い部分がありました。
それは、鱗。
ちょうど初潮のあたりから、彼女の身体に姿を見せ始めたのはまさしく鱗。かさぶたやできものなどではなく、銀色の、魚か爬虫類のような本物の鱗が生えてきたのです。
自分の身体の一部でありながら、いつ見ても目を背けずにはいられないほど醜い鱗。それは彼女が成長するにつれ、少しづつですが着実に、覆う範囲を広げてきています。
今は下着で隠れる程度に収まっていますが、いつかはこの鱗が、体中に広がってしまうのではないか。その予感に震えながら、彼女は眠りにつくのです。
不穏な影
彼女を脅かすのは、鱗だけではありません。
たぐいまれなる美貌に恵まれた彼女ですから、今までも知らない男に突然言い寄られたり、へたをするとストーカーじみた行いをされることがありました。
しかし、そんな連中よりもっとたちの悪い相手に目をつけられてしまいます。
その男はしばしば楼子の後をつけてきて、それにとどまらず執拗な嫌がらせをしてきます。
兄と一緒に外出した際、またその男につけられた楼子は兄と相談し、男を誘導しながら交番に駆け込みました。
しかし何ということか、その男は本物の刑事であり、なぜか楼子が売春組織の元締めということになってしまいます。
当然ながら、そんな事実は微塵もありません。
その話はやがて学校にも持ち込まれ、普段の反抗的な態度から弁解を信じてもらえない楼子は、次第に追い詰められていきます。
鱗の出どころ
そんなある日、楼子は懇意にしている叔母のもとを訪ねます。叔母もまた、楼子同様人間離れした美貌の持ち主。自身同様過剰ともいえる美意識を持つ彼女に、楼子がシンパシーを抱くのは自然なことだったのです。
翻訳家である叔母の家には、美麗な図面入りの本がたくさんありました。そのため外国語は読めずとも、絵を見たいがためにしばしば楼子は彼女の家を訪れていたのです。
その日も叔母から「あなたの気に入りそうな図面のある本が手に入った」と連絡を受け、楼子は彼女の家へ向かいました。
そこで何気ない会話のうちに、やがて話題は美貌、特に肌のことへと移ってゆき、叔母は彼女に言います。
「鱗を見せなさい」
彼女を苦しめていた鱗は、龍烏家の遺伝病。叔母もすでに発症しており、彼女が見せた裸身はかなりの部分が銀色の鱗に覆われていました。それが自分の近い将来の姿であるとささやかれ、頭ではわかっても、心は納得できずにわなわなと、楼子は震えるしかないのでした。
ふたつの問題
正体不明の鱗が、ほかにも罹患者のいる病気とはわかったものの、その病気自体については何一つわかっていません。
親子2代でこの病気を研究しているという医者のもとに楼子は連れていかれ、説明を受けるのですが、決定的な治療法はいまだなく、進行を遅らせる(かもしれない)という方法しかとってもらえません。
彼女を悩ませるのはもちろん鱗だけではなく、前述した刑事だという男も同様です。この男については、やがてとんでもない正体がある人の口から語られることになるのですが…。
美という妄執に振り回される、少女が迎えた劇的な結末。どうぞ髄まで味わってみてください。
参考元
- ・鱗姫小学館
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