障害者の性を取り扱った映画はあまり多くありません。そんな中、障害者の「生」と「性」を描いた映画「セッションズ」は「セックス・サロゲート」を題材とした素晴らしい作品となっています。
「セッションズ」の簡単なあらすじ
マークは幼い頃にポリオを発症し、首から下が麻痺しています。また、呼吸障害があるため「鉄の肺」と呼ばれる呼吸器の中で1日の大半を過ごすことを余儀なくされています。
不自由な生活ではあるものの、大学を卒業し現在は詩人・ジャーナリストとして活躍しているマーク。
そんな彼はある事がきっかけとなり「セックス・サロゲート」の存在を知り、セックスを経験してみたいと思うようになります。
カトリック信者であるマークは、この悩みを友人でもあるブレンダン神父に打ち明けます。ブレンダ神父はその相談内容に驚きながらも、マークの気持ちを尊重します。
マークはセックス・セラピストであるシェリルのセッションを受けることにするのですが・・・。
高い評価を得た「セッションズ」のキャスト
「セッションズ」に登場する主なキャストをまとめてみました。
マーク・オブライエン
ジョン・ホークスが首から下が麻痺した主人公マーク・オブライエンを演じています。
「ウィンターズ・ボーン」では掟の厳しい村に住むならず者、「マーサ、あるいはマーシー・メイ」ではカルト教団のリーダーといった癖のある男性を多く演じてきたジョン・ホークス。
「セッションズ」ではこれまでのイメージとまったく違う、障害がありながらも前向きに誠実に生きようとする男性を演じています。
マーク・オブライエンを演じるにあたり、ジョン・ホークスはボディダブル(本人が演じられないシーンを代役が演じる)やメイク、CGなどを使用しないことを条件に挙げたと言われています。
また、障害のあるマーク・オブライエンになりきるために、ジョン・ホークスは次のような工夫を凝らしています。
主人公を演じるジョン・ホークスは、マークになりきるために常に背中にボールを入れて背骨が曲がって見えるように工夫して演じている。
出典:http://timewarp.jp/movie/2014/05/28/64526/
寝たきりの役柄ですが、ジョン・ホークスは細部にまでこだわっています。
シェリル
セックス・セラピストのシェリルを演じるのは、「恋愛小説家」でアカデミー主演女優賞を受賞しているヘレン・ハント。
「セッションズ」出演時は49歳だったヘレン・ハントですが、彼女もまた作中でフルヌードに挑み、体当たりでシェリルを演じています。
ブレンダン神父
マークの友人であり神父でもあるブレンダン役を、「ファーゴ」でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたウィリアム・H・メイシーが演じています。
多くの映画賞を受賞
「セッションズ」で主人公マークを演じたジョン・ホークスは、ハリウッド映画祭のブレイクスルー男優賞やインディペンデント・スピリット賞の主演男優賞などを受賞しています。
セラピスト役のシェリルを演じたヘレン・ハントも受賞は逃しましたが、アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされる他、多くの賞を受賞しています。
この二人の俳優に加え、監督であるベン・リューインや作品そのものも含めると、2012年には18の賞に、翌年の2013年には17の賞にノミネートされ、うちいくつかの賞を受賞しています。
「セッションズ」、どこまでが実話?
「セッションズ」は実話を基にした映画ですが、そのモデルとなった人物を紹介します。
マーク・オブライエンは実在した人物
「セッションズ」でジョン・ホークスが演じた主人公マーク・オブライエンは実在した人物です。
映画同様に、実際のマーク・オブライエンもジャーナリスト・詩人として活動していましたが、1999年に49歳の若さで亡くなっています。
「セッションズ」は、マーク・オブライエンが1990年に「The SUN」に寄せた手記「On Seeing a Sex Surrogate」を基にした実話として製作されました。
シェリルも実在の人物
セラピストとして登場するシェリルも実在の人物で、モデルとなったのはシェリル・コーエン=グリーンです。
シェリル・コーエン=グリーンの職業は映画と同じく「セックス・サロゲート」で、性教育者としての博士号を持ち、「セックス・サロゲート」の草分け的存在と呼ばれています。
現在もその活動を続けるシェリル・コーエン=グリーンは、自身の生い立ちやこれまでの活動内容を綴った「性の悩み、セックスで解決します。~900人に希望を与えた性治療士の手記~」を出版しています。
「セックス・サロゲート」ってどんな職業?
出典:「セックス・サロゲート」(日本語で訳すと「性治療師」)という職業は、日本ではまだあまり馴染みがなく、映画を観て知った方も多いのではないでしょうか。
「セックス・サロゲート」の具体的な仕事内容は「セッションズ」と同じで、性生活に不安や悩みがある人を対象にセラピーやレッスンを行い、必要であればその過程で相手とのセックスも行います。
この手法に対して、一部からは批判の声も挙がっていますが、現在アメリカやオーストラリアなどでは職業として認知されつつあります。
障害者の性的介助に関してはヨーロッパではごく一般的に行われるようになっていますが、日本はこういった面ではまだ後進国と言えます。
「セッションズ」がR指定の謎
「セッションズ」は、日本公開時にR指定を受けています。映画のジャンルとしては「ドラマ」または「ロマンス」に該当するのですが、なぜR指定を受けたのでしょうか?
そもそもR指定って何?
出典:どこで製作された映画であれ、日本国内で上映する場合、映画倫理機構が審査を行うことになっています。
映画倫理機構が設定する区分は、次のようになっています。
「G」指定・・・年齢制限がなく全ての人が観ることが出来る一般的な映画。
「PG12」指定・・・小学生以下が観る場合、保護者と一緒に観るのが好ましいとされている映画。
「R15+」指定・・・「15歳未満の入場・鑑賞を禁止」する映画。
「R18+」指定・・・「18歳未満の入場・鑑賞を禁止」する映画。
この4つの区分の他、一般の映画館では上映出来ない「審査適応区分外」があります。
こんな作品もR指定を受けている
2017年4月に公開の「T2 トレインスポッティング」。1996年に公開され人気となった「トレインスポッティング」の続編になりますが、「刺激の強い性愛描写並びに薬物使用の描写」のために「R15+」指定となっています。
2014年のアカデミー賞で多くの賞にノミネートされたレオナルド・ディカプリオ主演の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」。「極めて刺激の強い性愛描写、各種麻薬の常用、及びヌード表現、性的台詞」のために、「R18+」指定となっています。
2013年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した「アデル、ブルーは熱い色」。「極めて刺激の強い性愛描写」のために、「R18+」指定となっています。
「セッションズ」はなぜ「R18+」指定?
映画倫理機構のサイトによると、次の理由から「セッションズ」が「R18+」指定になったと書かれています。
大人向きの作品で、極めて刺激の強い性愛描写並びにヘアヌード、性行為に関する会話と図解がみられ、標記区分に指定します。
出典:http://www.eirin.jp/list/index.php?title=%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%BA&eirin_no=&s_year=2009&s_month=1&e_year=2017&e_month=12&country=%E5%A4%96%E5%9B%BD%E6%98%A0%E7%94%BB&x=31&y=12
フルヌードのシーンや、セックスシーンが理由のようです。
「セッションズ」がR18+指定を受けたことに対して、ネット上では論議が交わされています。
ストーリーそのものを見れば、「R18+」指定に相当する部分はそれほど問題ではないように思われますが、テーマそのものが「性」を取り扱っているので、審査する側としても難しかったのではないでしょうか。
ともあれ、障害者の「生」と「性」を描いた素晴らしい作品であることに変わりはありません。中々話題に上がりにくい内容を、時にはハートフルに、時にはコミカルに描いた「セッションズ」、ぜひ一度観てみてはいかがでしょうか。
参考元
- ・参照リンク:セッションズ (映画) - Wikipedia
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