『RED/レッド』などで知られるロベルト・シュヴェンケ監督によって、彼の母国ドイツにて撮影された映画『ちいさな独裁者』。第二次世界大戦、終戦間近のドイツで起きた実際の出来事を描いた作品です。主人公であるへロルトが恐ろしい変貌を遂げていく本作のあらすじを、ネタバレありでご紹介します!
第二次世界大戦終戦から今年で74年が経とうとしているなか、とんでもない衝撃作が現れました、その名も『ちいさな独裁者』。
若き脱走兵・へロルトが発見してしまった、とある大尉の軍服によって、ゆっくりと彼とその周辺の世界が歪みだすサスペンスです。
記事の後半はネタバレを含んでいますので、おおまかなあらすじだけ知りたい方は前半まで、彼のぞっとするような変貌を遂げていく様を最後まで知りたいという方は、後半までお読みください!
『ちいさな独裁者』あらすじ1 嘘の始まり
1945年4月。敗戦を悟り、軍規違反が相次ぐドイツ部隊が多いなか、若き兵士ヴィリー・へロルトは命からがら自分の部隊から脱走しようとしていました。
銃をよけながら林へと逃げ、巨大な木の根元にあった穴に隠れ、追いかけてくる兵士たちをなんとか捲くことができたへロルトは、彼らが去った後どこへ行くでもなく、今は寂れた郊外をさ迷い歩きます。
途中、線路で出会い助けた脱走兵と農家の家に侵入し、卵などを略奪しようと企みます。
しかし、脱走兵が番人を殺せなかったために、農家の家族らがやってきてしまい、正面から逃げようとした脱走兵は彼らに捕まってしまいます。
そして、薄暗い小屋には、首を吊るされた兵士の姿がありました。
「略奪者は処刑に処す」という規則なのです。
脱走兵の存在しかまだ気づかれていない間に逃げることができたへロルトはまたしてもさ迷い歩きます。
すると、偶然か必然か、へロルトは辺鄙なところに軍用車両を発見します。
周囲には誰もおらず、車内にも人がいないことを確認した後で、中にあった食糧を齧りながら一緒に乗っていたスーツケースを開けます。
中には勲章がついたナチス空軍大尉の軍服一式が入っており、ろくな服装でなかったへロルトは寒さをしのぐためその軍服を着て、靴を履き替えることにします。
上官としてひとり芝居をしていると、自分の部隊から離れてしまったという上等兵・フライタークが車とへロルトを発見し側へ寄ってきます。
お供させてくださいと言う彼は、へロルトを完全に大尉だと思い込んでいるようでした。
そんなフライタークに食料を与え、このまま身を任せてみようとへロルトは車へ乗り込むことにしたのでした。
以上が『ちいさな独裁者』の冒頭のあらすじです。
偶然始まったへロルトの【嘘】。一体どこまでバレずに持つのか? この後はネタバレを含みながらさらに詳しく解説します!
『ちいさな独裁者』あらすじ2 へロルトの変貌
空腹のふたりはとある村の酒場に車を止め、ドイツ兵を嫌がる客と主人を「後方の確認と被害確認に来た」と言葉巧みに丸め込み、肉料理を振舞ってもらいます。
その夜、「略奪者を捕まえたから対応を」と言われたへロルトは、ここで自分も同じ立場だとバレるわけにもいかず、彼らの期待に応じ、震える略奪者を射殺します。
あくる日、農家に立ち寄ったへロルトとフライタークは部隊から外れてしまったらしい、乱暴な兵士であるキピンスキーとその仲間に出会い、偽りの任務「特殊部隊H」を彼らの軍隊手帳に書き込み、自身の配下にしてしまいます。
キピンスキーはへロルトの丈の合っていないズボンに疑問を感じつつも、大人しく彼の配下となりました。
ガス欠になった車をキピンスキーらに引かせて移動していると、陸軍大尉と出会いへロルトの軍隊手帳を見せろと言われます。
しかし、こんなピンチも高圧的な態度とポーカーフェイス、そして嘘でその場をしのぎ、後方の確認をしていることを相手に伝えると、車をけん引し収容所に連れて行ってくれることになります。
検問所でかつて自分を追っていたユンカー大尉に出会うことになりますが、彼はへロルトのことを思い出せないようでした。
危機を回避したへロルトは収容所の実態、収容している人間が多すぎで費用がかさむと訴える警備隊長のシュッテの話を聞きます。
そして、収容所のトップであるハイゼン所長にも手出しができないよう、シュッテの工作で上からの圧をかけ、「総統から受けた任務であり、自分には即決裁判が行える権限がある」として、囚人たちの処刑を決行し始めるのです。
ハイゼン所長がいらだちを見せる中、へロルトは涼しい顔で処刑の準備を徐々に整えて行きます。
ある日、丈の長いズボンを仕立て直しているところにフライタークが訪れ見られてしまうものの、「丈が合ってよかった」とだけ言います。
囚人が収容されている小屋へへロルトが入ると、整列させられた囚人たちがたくさんつめこまれており、そのうちのひとりに何をしたのか尋ねますが返事がありません。
それにいらだちを覚えたキピンスキーの怒りが爆発し、鞭でそのひとりを叩きまくります。
外に出たへロルトに「止めなくてもいいのですか?」と尋ねるフライタークに「じきに死ぬんだ」と、まるで自分もその言葉をかみしめるように呟きます。
そんな囚人たちを外へ並ばせて、事前に掘ってあった穴へ入るように命令し、「30人を3回で」との指示のもと、ついに大量虐殺が始まりました。
対空機関砲が弾切れになると、兵士たちが穴へ近づき銃撃を開始、その光景はまるで地獄絵図です。
あまりに非人道的すぎると立ち去る兵士もいるほどでした。
虐殺は夜にも続けられ、ひとり死にきれずうめき声をあげる囚人を、遠くで佇むフライタークにへロルトはとどめを刺すよう指示をし、戸惑いを残しながらも彼は穴の中に入って静かに任務を遂行しました。
夜になると、虐殺をずっと望んでいたシュッテらと宴を開催し、酒と料理でを楽みます。
そして、小さなきっかけから始まった暴力騒ぎの当事者たちをひもで結んで走るよう指示し、二人組のコメディアンに銃を手渡し、撃つように命じます。
コメディアンの片割れは、人を撃つくらいならと自殺を選び、もうひとりは必至で走る人間を撃ちました。彼は、へロルト親衛隊の一員となります。
『ちいさな独裁者』あらすじ3 独裁者の最後
とある日、連合軍の空からの爆撃に遭ったへロルトたちは、生き残った部下たちを連れて収容所を後にします。
小さな町へと移動してきた彼らは、略奪者や脱走兵を捕まえ処刑したり、気に障ったことをした兵士を殺したりと好き放題していました。
しかし、野戦憲兵が訪れついにへロルトたちは捕まり、裁判にかけられることになるのです。
4時間も直立不動で立ち、父に倣い正直に今までのことを話すへロルトに、同席していた軍関係者は、自分の罪を認めていると、判決を緩めるようそれとなく裁判官に訴えます。
最終的にヘロルトは死刑を免れ、前線へと向かうことが決定します。
その夜、彼は窓から逃走し、白骨化した死体が大量に転がっている暗い林を歩き進んでいきます。
しかしその後、イギリス軍に捕まり、最後には処刑されてしまうのでした。
『ちいさな独裁者』まとめ
ロベルト・シュヴェンケ監督は「彼らは私たちで、私たちは彼らだ。過去は現在なのだ。」と本作について語っていますが、まさしくその通りなのかもしれません。
ヘロルトが死刑になった年、彼はたったの21歳だったといいます。
上司の経験も積んでいない彼が、どうしてここまで嘘を突き通すことができたのか。
いろいろな要因があるかと思いますが、そのひとつに、周囲の人間関係も含まれるのではないでしょうか。
職場という小さな世界で権力をふるって、さも自分は正当だと言わんばかりに「パワハラ」をする上司。
自分の方が立場が上だと思ってやまない夫など、ヘロルトまでいかずとも日本社会にも多くの「権力者」の影が見え隠れしています。
今までの習慣や風潮というものは怖いものです。
自分の常識は間違っていないと思わずに、新しいことを学びアップデートしていくことが大切であるのかもしれません。
内容は戦時中に起こった衝撃的な実話だとしても、本編とエンドクレジットを観ていると、現代に生きる自分たちについて考えさせられるような深い映画ではないでしょうか。
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