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出典:amazon

2019/01/19
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甘美なる地獄絵図。【幻想小品集】で味わう非日常恋愛

睡眠薬、眠り病、鏡像、ピアシング、真珠、悪魔崇拝、チョコレート中毒。こうしてテーマを抜き出しただけで、いかに闇深い物語なのかお分かりいただけるかと思います。こんなに雑多に詰め込んで、破綻するんじゃないのとお思いの方はどうぞご安心ください。 この本に収められた物語は七つ。 それぞれが確固たる軸を持った、暗く妖しい愛の物語が詰まった短編集なのです。

目次

作者は?

作者の嶽本野ばら氏は、「乙女のカリスマ」として一世を風靡した人物です。
代表作「下妻物語」は映画化されたので、観たという方も多いのではないでしょうか。雑誌「ゴシック&ロリータバイブル」にもたびたび登場していました。

その経歴からわかるように、ロリータファッションに造詣が深く、たいていの作品で過剰なまでにお洋服の描写をするのがお約束。メゾンもばっちり記載されています。気になる方はどんな登場人物がどんなお洋服を着ているのか、メゾンの名前で調べてみても面白いでしょう。

破滅的なストーリーを得意とし、のみならず自身も麻薬取締法違反の疑いで逮捕されるなど、公私ともにスキャンダラスな人物です。
9月には復帰後最初となるエッセイ集が発売されており、今後も気になる人物と言えます。

破滅に至る幻視

この短編集に収められたほとんどの物語で、登場人物たちはみな「破滅」を抱いています。

現在進行形で破滅へ向かっているのか、立っている場所が破滅そのものなのか、すでに破滅のその先に棲んでいるのか……それは人物によって様々で、読者の解釈でも様々でしょう。ですがふわふわした幸せにくるまって、ゆりかごから墓場まで安寧に生きて行ける人間は、この本の中にいないといってもよいかもしれません。

・例えば「Sleeping pill」の主人公。

彼は睡眠薬に依存しています。そしてそれぞれの睡眠薬を過剰なまでに愛で、種類ごとにタイプの違う女性に当てはめて夢想する、怠惰な日々を送っています。

そんな彼の脳裏に刻み込まれた、ある風景。それは睡眠薬を用いて男女が心中するシーンでした。
あるきっかけから、風景の本当の意味を知った主人公は、不吉な覚悟を決めるのでした。

・例えば「Religion」のふたり。

大切な人のために、神ではなく悪魔を選んで祈った彼女。
そんな彼女と些細なきっかけで言葉を交わすようになった主人公は、インモラルな「悪魔崇拝」の現場を見せつけられ、彼女とともに「儀式」に参加します。

純粋に悪魔を信仰する彼女と、そんな彼女を信仰しているが如く愛する主人公。
最終的に「結果」を得て手を取り喜ぶ二人ですが、普通の感性を持つ人間であれば、ともに喜びたいとは思えないでしょう。

・例えば「Chocolate Cantata」の親子。
 
娘にドラッグ入りのチョコレートを与えて、自分に縛り付けようとする父親。
表向きには父親に甘えているものの、実は父のたくらみを看過して、陰で嘲笑っている娘。

これだけでも滅茶苦茶なのに、物語の最後には、父親にもっとおぞましい結末が待ち構えています。娘と読者を出し抜いてたどり着く、父親の着地点はもはや妄執。

深淵を愉しむ

このように、決して後味のよくない物語ばかり並ぶ一冊ですが、なによりの魅力はは言葉の美しさです。
状況の悲惨さに似合わぬ柔らかな文体と、それに合わせた耽美な言葉選び。

この本に収められているのは、陳腐な表現になりますが「考えずに、感じる」物語ばかりなのです。

小難しい解釈や考察はとりあえず後回しにして、幻想耽美の世界に溺れる。その結果、どんな悲惨な物語も美しく、素敵なものとして受け入れてしまう。 
幻想小品集は、まさしくそんな「珠玉の」短編集なのです。
 

参考元

  • ・幻想小品集角川書店

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