「脱獄王」と呼ばれるまでに脱獄を繰り返した男とその周りに関係した者達の物語。私達の人生何かの切っ掛けで犯罪を犯してしまう事とは常に隣り合わせにあるのかもしれない。テレビ東京ドラマ特別企画の最終話を飾る人生を深く考えさせられるドラマである。
題字
先ず、何と言っても第一印象は筆で書かれた迫力の題字であろう。
これは、書道家・武田双雲によって書かれたものである。
双雲は国内だけに止まらず国際的に活躍する書道家として、他のアーティスト達とコラボレーションするなど、独創的な創作作品を生み出している。
「たけしのニッポンのミカタ!」に武田双雲が出演した際に、ビートたけしが依頼し、たけしが自ら磨った墨で、双雲が書いた書である。
このドラマだけでなく、双雲は幾つかの映画・ドラマをはじめ、ロゴなども書いているので今までに目にしたことがあるのではないだろうか。
ドラマ
原作の『破獄』(はごく)は、1983年に岩波書店から出された作家 吉村昭の長編の犯罪小説である。
この小説には「白鳥由栄」という実在した脱獄王のモデルがいる。
この「脱獄王」と呼ばれる受刑者と看守との闘いを描いた物語は、第二次世界大戦前~戦後という日本の大変厳しい時期を描いた物で、そういう意味では歴史的背景にも興味を惹かれる。
この物語は、1985年にもNHKがスペシャルドラマを製作している。
この時の佐久間の役は緒形拳である。
今回の作品では、脚本は池端俊策というベテランが務めている。
そして監督は深川栄洋だ。彼はまだまだ若手だが、幾つもの良い作品を創り出している。
抜擢された俳優達も素晴らしい。
佐久間という超人と、浦田をはじめとする他の看守達とのやり取りを実に面白く見せている。
あらすじ
時は昭和17年6月。
秋田刑務所から佐久間という無期懲役囚が脱獄した。
佐久間は青森の刑務所からも脱獄したことがあり、危険人物として刑務所の中でも厳しい監視下に置かれていた。
その時、東京の刑務所で看守部長を務める浦田の耳にも脱獄の情報が耳に入る。
浦田は佐久間が東京の刑務所にいた時に看守であったが、情のある浦田には佐久間は従順だった。
その脱獄から3か月後、佐久間が浦田の前に現れる。
秋田刑務所での看守達が人間扱いしないことを訴えて欲しくて、蒲田の元へ訪ねて来たのだ。
しかし、浦田は佐久間の事を通報し、再び囚われた佐久間は今度は北海道の網走刑務所に収監される。
そして浦田も佐久間との以前の関係を買われ、同じ刑務所に看守長として転任させられる。
そこから、浦田と佐久間の長い戦いが始まる。
主役キャスト
浦田進(看守長)<演:ビートたけし>
関東大震災時に千人余りの受刑者を非難させ、誰も脱走した者はいなかった。しかしその為に家に戻らず、火事で妻子が死んでしまい、自分自身の家族を見殺しにしてしまったという思いに苛まれている。
ひとり娘が生き残ったが、その娘ともぎこちない関係になっている。
佐久間清太郎(無期懲役囚)<演: 山田孝之>
青森の貧しい家に生まれ、蟹工船などで働いていたが雑貨屋に盗みに入り、仲間が店主に捕まり、その仲間を救う為に店主を殺してしまった。
小柄だが、怪力で思いもよらない身のこなしで脱獄を何度も図る。
東京の刑務所で看守だった浦田を「オヤジさん」っと慕って呼ぶ。
ルールの規制
震災で怪我は負ったが生き残った浦田の娘と父親である浦田とのやり取りが、静かなシーンの中に双方の思いを私達の中で思い描かせる。
浦田の中にある、仕事を全うしたが家族を救えなかった、人としての後悔。
どうして家族の元に直ぐに駆けつけてくれなかったのかと父親を恨む気持ちと、人として生きる中に父親を理解しようとする娘。
ここには理性のための呵責が混沌としている。
それに相反して、佐久間は「嫌な事は嫌、好きな物は好き」と規則には自分が納得しないと従わず、それ故に何度も脱獄を試みる。
そして、佐久間の妻も脱獄をしてでも会いに来て欲しいと願う。
規則があるから自分を抑えて従うのではなく、自分らしさを貫く。
規則は何のためにあるのだろうか?
規則とは“行為や手続きなどを行う際の標準となるように定められた事柄” とある。
この定めが、時に人々をがんじがらめにしてしまう。
見どころ
このドラマは、ビートたけしにとって3年ぶりの主演ドラマになるのだそうだが、浦田を演じる彼の存在感はさすがである。
刑務所の中、受刑者と看守という二人の戦いがどの様な展開になっていくのかドキドキしながら見守ってしまう。
また、戦後日本が戦争に負けてアメリカから日本の刑務所の在り方が問われるシーンでの浦田の返し方は見物だろう。
そして何といっても興味があるのは、「佐久間が4回もの脱獄をどう図ったか」であろう。
貧困な家庭に生まれた彼は、学は無いが頭が良く、目的のために身体を極限まで使いこなす。
彼の様な人間は、ほんの一握りしかいない人間であることは間違いないであろう。
もし戦争時でなかったら。
彼が貧困な家庭に生まれていなかったら。
このドラマを観た後には、観る前にはあまり気に留めなかった生きて行く上での「規則」に違和感や疑問が残り、自分の判断にざわつきを覚えるだろう。
参考元
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