近年ヒットした映像作品の中には、制作側の意図しない力が作用した例が少なからず存在する。その力というのが視聴者による”シェア”の力である。SNSが普及し、好きなコンテンツを他人にシェアするという行為は影響力を増し、今では制作側も無視できないものとなっているのだ。
”シェア”がヒットのカギになる時代
出典:amazon皆さんは、アニメ「けものフレンズ」や連続ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」を視聴したことはあるだろうか。
アニメとドラマ、どちらもジャンルが異なる作品ではあるが、この2つに共通するものが一つ存在する。
それは、ブームの火付け役は、制作サイドではなくファンであったということだ。
SNSを通して、作品の魅力をファンが拡散、それを見て気になった視聴者がテレビを視聴し、また面白さを拡散することによって、爆発的にその存在が世間に広まっていったのである。
実際「逃げ恥」の初回視聴率は10.2%だったのにもかかわらず、回を追うごとに視聴率は上昇し、最終回には20.8%と、倍以上の数値を叩き出す結果となっている。
また「けもフレ」も放送前は、アニメファンの間でも話題にもなっていなかったが、Twitter等で人気が爆発。
OPを歌唱した声優ユニットが「ミュージックステーション」に出演を果たすなど、まさに2017年冬アニメのダークホース的な存在となった。
今回は、この2作品をケーススタディとして、視聴者の”シェア”がもたらす秘密について迫っていこう。
”シェア”は消費者行動プロセスの最終地点
出典:実はこの”シェア”という行動は、マーケティングにおける消費者の行動プロセスをフレームワーク化した、AISAS(アイサス)モデルの最後を現す言葉でもある。
AISASモデルとは大手広告会社の電通が提唱したモデルであり、
A…(アテンション=注意を惹きつける)
I…(インタレスティング=興味を持たせる)
S…(サーチ=調べてもらう)
A…(アクション=購買してもらう)
S…(シェア=共通してもらう)
の5つの頭文字から成るものだ。
ネットメディアが普及した現在、消費者のネットを通じての行動心理を的確に現していると言えるだろう。
それでは、「逃げ恥」や「けもフレ」のヒットまでのステップを、このフレームワークに落とし込んで考えてみよう。
AISASモデル×逃げ恥・けもフレ
「逃げるは恥だが役に立つ」や「けものフレンズ」をAISASモデルに当てはめると、視聴者がどういう心理で行動し、ヒットに繋がったのかが明確になってくる。
尚、通常の商品ではなく、ドラマ・アニメにAISASモデルを当てはめるので、対象の顧客は初回視聴者とする。
A…(アテンション=注意を惹きつける)
最初のアテンションは、少数存在する初期からの視聴者に存在を知ってもらうフェーズだ。
ここでの視聴者層は、「とりあえず見てみるか」「1話見て面白くなかったら切ろう」という、コアなドラマ・アニメファンであることが多い。
とりあえず改編期ごとに、ドラマやアニメはすべてチェックするという視聴者層に認知してもらう事が重要だ。
I…(インタレスティング=興味を持たせる)
インタレスティングは、存在を認知してもらった視聴者に興味を持たせるフェーズだ。
ここでの視聴者心理は「この人が主演だと面白そう!」「このスタジオが制作しているんだ!」であり、如何にしてコアな層の視聴を確実にしてもらう事が重要だ。
逃げ恥なら「星野源さんが主演なら見てみよう」、けもフレなら「内田彩さん(ラブライブ等に出演する人気声優)が出演しているんだ」であり、出演者のネームバリューなどは興味を惹く大きな要因になる。
コアなファン層の離脱を防ぐという意味でも、このフェーズは重要になってくる。
S…(サーチ=調べてもらう)
出典:サーチでは、いよいよ視聴者自身が自発的にコンテンツについて調べるようになるフェーズだ。
視聴者の心理は、「出演者・監督の◯◯ってどんな人だろう?」「このアニメって原作あるの?」というものであり、視聴者が能動的にコンテンツへの知見を深めている。
視聴者が、逃げ恥やけもフレをSNS上で検索し、前評判の感想をチェックしたり、ネット上で原作をチェックするのはこのフェーズだと言える。
A…(アクション=購買・視聴行動)
出典:そしてアクションは、実際の視聴フェーズに入るフェーズだ。
ここで初めてアニメ・ドラマを見た視聴者は、「意外と面白かった!」「前評判より酷いな」等、様々な感想を抱くことになる。
逃げ恥・けもフレでは、ここで「恋ダンスが面白い!」や、「IQが低くなるが見てしまう」という感想を抱く視聴者を獲得することに成功している。
S…(シェア=共有させる)
最後のシェアは、初回を視聴した人達が次々とSNSで情報を共有していくフェーズだ。
ここで視聴者は自分の抱いた「面白い!」「オススメ出来る」といった感想をSNS上に発信していく。
逃げ恥の「恋ダンス」や、けもフレの世界観・「すごーい!」といったワード等は、シェアを増長させる要素でもあり、結果として大きくバズることなった。
(けもフレの場合は1話ではなく2話以降で、大きくシェアされた)
そしてシェアが進むと、Twitterではトレンド入りすることもあり、そうなれば更に多くの人に見てもらうキッカケ(次のアテンション・インタレスティング)が出来る。
そして、そして初回視聴者のシェアを見た人達が自ら(サーチ)を行い、次の放送から視聴or追っかけ視聴(アクション)することによって、次のシェアに繋がっていく。
”シェア”は、ある人には終着点であり、ある人には出発点でもある、循環の構造となっており、回を増すごとにシェアが増えていった事が、逃げ恥・けもフレからは読み取れる。
広告宣伝費を最小限・制作費は最大限に
出典:これまでドラマ・アニメを、AISASモデルに則って説明してきたが、これを制作サイドが狙って起こすことは可能なのだろうか?
結論から言うと、可能であると考えられる。
確実に成功するとは限らないが、”シェア”でヒットを生み出せる可能性を高くする方法として、従来の広告宣伝費に回す予算を作品の制作費に当てる手段がある。
最初から制作側が、マスに向けて広告宣伝を行うのではなく、コアな視聴者層にターゲットを絞りプロモーションを行い、後の宣伝は殆ど全てを視聴者に任せてしまうのだ。
その代わり予算を制作費に注ぎ込み、コアな視聴者を唸らせるようなクオリティの作品に仕上げる。
そうする事によって、最初は「知る人ぞ知る名作」だが、それをシェアという口コミで「知られる名作」に昇華させる事が可能ではないだろうか。
デメリットを乗り越えて良いコンテンツ作りを
しかしこれにはデメリットも存在する。
それは”シェア”の効果を見越したシュミレーションは、予測しづらく精度が低くなる事だ。
決裁者からすると、大幅に制作費を掛けたコンテンツのプロモーションを、視聴者に任せる決裁資料を見て首を立てに振る事は難しいだろう。
しかし、「良いものは宣伝せずとも売れる」の精神でチャレンジする事は大いにアリではないだろうか。
高いクオリティの作品を楽しんでもらうことは、視聴者の満足度を上げる事にも繋がっていく。
視聴者の目線に立って、高いクオリティの作品を提供したいという意識があるのであれば、今以上に高品質な作品を提供してもらいたいものだ。
作品の質が良ければ、我々視聴者は喜んで他人に勧めるのだから。
参考元
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