2016年に劇場版アニメが公開された『聲(こえ)の形』 それに合わせる様に作者の「大今良時(おおいまよしとき)」は、新作『不滅のあなたへ』を開始させました。 数多くの謎と手塚治虫の「火の鳥」に似た死生観を綴る作品で、主人公「フシ」とは何者なのか? 今回の作品に秘められた作者の意図をインタビュー記事や物語から考察します。
あらすじ
何者かが世界へ"球"を投げ入れた。
"球"は世界からの刺激によって変化し、形を変えて行く。
そして、"球"は次々に姿を変化させ、ひとりの少年と出会う事になる。
少年が住むその世界は、極北にある厳しい極寒の世界だった。
タイトルへの「想い」
前作『聲(こえ)の形』では、言葉が喋れない障害に対する偏見や理解を真正面から取り扱い、公開直後から大きな反響を呼びました。
それは、現実に生きる我々も遭遇するかもしれないシチュエーションであり、登場人物達の感情は我々にも理解しやすいリアリティを持っていました。
今回の『不滅のあなたへ』では、一転してSFともファンタジーともつかない異世界が展開します。
作者「大今良時」は、『聲の形』完結時のインタビューで、次はSFが描きたいと希望していました。
本作品では、その希望が反映されて異世界が舞台となっています。
『聲の形』では、「怒り」「悲しみ」「不安」など、人間としての感情を相手へどう伝えるか?
そんな、登場人物達それぞれの交流をメインとして物語が進みました。
『不滅のあなたへ』でも、そうした感情描写を残しています。
更にそれに、「生きる事」「死ぬ事」について焦点をあて、より深く読者へ問いかける作品となっています。
『聲の形』のインタビューでは、「映画1本を見たくらい密度の濃いマンガを描きたい」と作品を造り出す時の心情を語っています。
『不滅のあなたへ』は、死生観を織り込む事でそうした心情を強く反映した作品となっています。
観察者「フシ」
本作品のタイトル『不滅のあなたへ』は、その言葉自体が独特の雰囲気を持っています。
「あなた」は、作品中で不死身の存在である主人公「フシ」をイメージします。
ですが、作品発表時のインタビュー記事で作者は『大切な人との時間が不滅で永遠でありますように』と言っています。
作品タイトルの「あなた」は、主人公「フシ」では無く、「誰と共に過ごす時間」「人と交流する時間」が「不滅」でありますようにという願いを込めています。
『不滅のあなたへ』というタイトルは、そうした「永遠続いて欲しいかけがいの無い時間」を「フシ」が観察している。
それを端的に表現したタイトルであり、それは作品中にも反映されています。
主人公「フシ」は、まだ言葉も上手く話せない不完全な存在であり、彼とかかわる人達を軸に物語は進行してゆきます。
あくまでも「フシ」は、それを傍観しているだけです。
水面へ投げ込まれた投石「フシ」
不死身であり、更にコピーした存在へ変化する能力を持っている「フシ」は、それだけでも人よりも優れた存在です。
ですが、彼自身が人々と交流しようとする事はありません。
世界に起きた事を「観察し続ける存在」、それが主人公「フシ」です。
ですが、「フシ」の存在や役割は「観察者」というだけで無いようです。
「観察者」でありながら、「フシ」は人間達へ干渉して影響を与える事が出来ます。
それと同時に「フシ」自身も他人と接触する事で、その影響を受けて行きます。
不死身で姿を変化させられる存在、物語の世界に住む人々には「神」にも似た存在です。
彼と出会った人達は、彼の存在に影響されて新たな行動を起こします。
もし、「フシ」が「観察」だけを行う存在であるならば、「フシ」を世界へ投げ入れた「何者」は、「フシ」の能力を「人と同じ」にする事も出来た筈です。
物語では、「フシ」が不死身でなくてならない必要があるエピソードが登場します。
「フシ」を世界へ送り込んだ存在である「何者」の出現と、彼と敵対する存在の登場です。
しかし、どちらも「世界」に対して大きな影響力は持っていない、または不可侵的なスタンスを取っています。
そうした事からも「フシ」を造った「何者」は、ただ世界を観察するだけではなく「変化」を起こす為に「フシ」を造り出した様です。
例えるならば、鏡の様に波ひとつない水面をただ眺めたい訳ではなく、その水面へ小石を投げ入れ、それによって生じた波紋を「観察」したいと考えている様子です。
造物主「大今良時」から見た主人公「フシ」
本作品が発表された後のインタビュー記事で、作者「大今良時」はコメントを述べています。
その言葉から、物語における「フシ」の存在が理解出来ます。
作者が作り上げた「箱庭」の中で、人々がそれぞれの人生を生きる姿を「フシ」を通して観察します。
常に観察する立場である為に「不死身」であり、それを出会った人達の事を忘れない為に「フシ」は変身能力で姿を写し取る事が出来るのです。
物語の全てを見聞きする「観察者」であり、姿を変化させる事で「記録」します。
そんな「フシ」はあくまでも「傍観者」であり、読者そのものとも言えるでしょう。
異世界で生きる人達の群像劇を見せる『不滅のあなたへ』
主人公「フシ」は、これから多くの人達と交流して多くの事を獲得してゆきます。
そうして、他人の存在意義を見つめる彼自身の存在意義が明らかにされていく事でしょう。
参考元
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