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出典:amazon

2019/04/05
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人と蟹とのよじれた関係。泣ける怪奇小説【かにみそ】

かわいらしいタッチで描かれたサラリーマンらしき男性の頭に、つぶらな瞳で真っ赤な蟹が乗っかっている――こんなにコミカルな表紙なのに、これはホラー小説なのです。

目次

・蟹との遭遇

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 主人公の「私」は実家住まいの無気力なフリーター。ある日近くの浜辺で、足の一本がもげた小さな蟹を見つけます。
 せっせと砂を口に運ぶ蟹が妙に気に入った「私」は蟹を家に連れて帰り、水槽の水を飼っていた熱帯魚ごと庭にぶちまけ、蟹との生活を始めました。

 蟹は小さいくせに、大食いでした。
 気まぐれで与えた魚肉ソーセージのかけらを皮切りに、「何でも食べるのかな」と興味本位でどんどん食べ物を与える「私」。切れ端や残り物をあらかた食べさせたせいで生ごみが激減し、家族に怪しまれてしまうほど。
 それらを次々と平らげて、蟹は脅威的な速度で成長していきます。

 そのころから「私」の家では小さな異常が頻発します。食べかけのお菓子が消えていたり、消したはずのテレビがいつの間にかついていたり。
 「私」が「勝手にテレビ見てるの?」と話しかければ、「えへへ、ごめんね」と軽薄に、蟹はしゃべり始めたのでした。

・蟹との生活

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 蟹がしゃべるという異常事態を主人公はあっさりと受け入れ、蟹も調子に乗ってそれからは饒舌に語り始めます。
 家族の読み終わった新聞を読みたいと「私」に要求し、昨日の新聞だとテレビ欄が合わないとしょげかえり、代わりにとテレビのリモコンの使い方を教わって喜ぶ蟹。
 まるで人のように食事のリクエストをして、政治を語り、「私」と恋人とのことを冷やかします。

 テレビと新聞の知識を、食事同様貪欲に吸収する蟹。
 いつしか頭脳にコンプレックスを持つ「私」は、蟹と話すことで自分も賢くなれると思うまでに至ります。

 そんな蟹との蜜月ですが、ある事件によって関係は激変を始めることになります。

・蟹との密約

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 その事件とは「私」が恋人を殺してしまったこと。かっとなって首を絞めたという計画性のかけらもない殺人でした。
 しかし「私」はしゃべる蟹を受け入れた柔らかすぎる心を活かして、あわてず騒がずいったん帰宅。大食漢の蟹を連れ出し、恋人の部屋に舞い戻ります。

 そうしてひとこと。
 「食べる?」

 蟹は「私」の目の前で、彼女の死体を平らげます。
 その光景を喜々として眺める「私」。
 こうして蟹は人間の味を覚え、今までの食事では飽き足らなくなったのでした。

 「私」は蟹をバッグに入れて連れ歩き、人間を狩る手伝いをし始めます。廃ビル、トイレ、さびれた映画館。様々なところで蟹は人間を食い殺し、「私」はそれを見ることに喜びを見出して、不健全ながらも楽しい生活を始めます。
 しかしいつの間にか罪悪感を感じ始める「私」。相変わらず無邪気に食事としての人間を求める蟹。彼らの関係は、だんだんぎくしゃくし始めて……。

・蟹との関係

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 この蟹は、性別不詳です。
 一人称は「おれ」ですがアルトの少女のような声とのことで、口調も小生意気な女の子のよう。だけれどシニカルで、老成しているようで、でも軽薄な時もあって……と、実に不可思議な蟹です。
 このつかみどころのない人格(?)が、主人公との関係性をもあやふやにしています。彼らの間にあるのは友情なのか、打算なのか、ひょっとして恋慕なのか――はたまた考えも及ばぬ何かなのか。

 何にしろ、どんな形であっても、きっと彼らの間に絆はあったのでしょう。
 そう思わせてくれるラストシーンには、きっとほろりと来るはず。

・百合も忘れずに

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 この本には中編の「かにみそ」とともに、同程度の長さの「百合の火葬」という作品が収録されています。
 そちらはタイトルの通り、百合の怪異。愛嬌があってよくしゃべる蟹が「動」のホラーなら、百合はひたひたと忍び寄る「静」のホラー。気づかないうちに自体は進行し、一種の侵略ものの様相を呈します。
 かにみそとあわせて、どうぞご賞味あれ。

参考元

  • ・かにみそ角川書店

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